2020/08/05

【大爆発】中東レバノンのベイルートで爆発事故







亡くなられた方のご冥福と、一日も早い復興を。




日本とはあまり縁の無い地中海に面する中東の国レバノン。最近では昨年の年末にルノー・日産連合の元会長であるカルロス・ゴーン被告が高飛びしたことで有名になりました。その首都ベイルートで8月4日、現地時間の18時ごろに港湾の倉庫で大爆発がありました。



一度目の爆発後燃え盛る倉庫、そして2度目の大爆発で大規模な衝撃波が発生、多くの建物が倒壊、半壊し犠牲者は執筆時点では113名。今後の救出活動でさらに増える模様。


まずはこちらを。




文明の交差点に位置するレバノン。ペルシア世界とアラブ世界、正教会とキリスト教、アフリカ、アジア、ヨーロッパの境目にあり、また地中海、紅海、ペルシャ湾を陸路で繋ぐ、いにしえの時代から、ヨーロッパとアジアを繋ぐシルクロード、香辛料の交易における要所として栄えてきました。しかしながらオスマン帝国の衰退により権力の空白地帯が発生、欧米列強により植民地化されシリアなどと共にフランスの植民地として支配を受ける。カルロス・ゴーン被告がレバノンとフランスの国籍を持つのも、その背景には歴史的経緯があるのだ。またフランスには多くのレバノン料理のレストランがある。そうケバブ屋だ。



報道によれば、今回爆発したのは港湾の倉庫で保管されていた硝酸アンモニウムとのこと。硝安とも言われるこの物質、一度は聞いたことはあるだろう。気体である窒素をハーバーボッシュ法によりアンモニアとして固定したものだ。窒素は元々自然界には液体や個体の状態では殆ど存在せず、気体の状態で存在する。それをドイツの科学者が工業化の大量生産法を確立したのが始まりだ。



ドイツでは平時では空気からパンを生産し、戦時には空気から爆弾を生産する。





これのことである。硝酸アンモニウムは植物の必須栄養素であるKPN(カリウム、リン、窒素の原子記号)を含むため化学肥料として頻繁に用いられる、比較的調達が簡単な物質だ。第二次世界大戦後の人口爆発を緑の革命により支えたのもこれである。またそれに少量の軽油や灯油、ガソリンを混ぜると発破工事に使われる爆発物となる。発破工事と聞くとダイナマイトと思われるかも知れないがトリニトロトルエンから製造されるダイナマイトは高価であるため、殆どが硝酸アンモニウムだろう。



補足だがトリニトロトルエンからダイナマイトを製造したのは、我々のよく知るノーベル賞の創設者であるアルフレッド・ノーベルで、窒素の固定に成功し爆発物の大量生産に道筋を付けたハーバーさんとボッシュさんも勿論受賞している。強力な爆発物を作った人にもれなく与えられる名誉な賞として、その後もノーベル賞は核爆弾を理論化したり、実験、開発した人物にも与えられた。最近では全ての質量がエネルギーとして開放されることで水爆のウン億倍とも言われる破壊力を有する反物質の研究者にもこの賞は与えられているらしい。ノーベル賞の爆発物大好き遺伝子は脈々と受け継がれているのである。


こちらの記事ね。
CERN、お粗末過ぎる研究内容







話が大分逸れてしまったが、事故の原因は溶接工事との一報だ。硝酸アンモニウムと言えど簡単には爆発しない。背景には地中海世界の気候が関係するだろう。地中海と言えば夏に高温、乾燥することで有名だ。もちろん高温、乾燥するため、木材の建築物は無く、その殆どが石やレンガ造り、また最近では鉄筋コンクリート製だ。もし日本の様な木材の建築物が多ければ、毎年確実に全て燃えていただろう。それほど高温、乾燥するのである。



アイキャッチ画像からもその様子が伺えるが、真っ青な何も遮るものが無い太陽は、地面を容赦なく照り付け、地表近くは60度にも達する。そこに乾燥が加われば全く火の気が無いところからも容易に発火する。このような環境では、誰かが近くで料理をしていたり、タバコを吸っていたりと、ちょっとしたキッカケで離れた場所にある紙、木、布などは発火する。まったく触れていないにも関わらず飛び火するのである。



今回も溶接か漏電かは分からないが、たまたま発火しやすい物が近くにあり、燃えだした物の近くに農業用の硝酸アンモニウムが多く保管してあったのだろう。砂漠の国なんで、農業のために船で大量に硝酸アンモニウムが運ばれ、港湾の近くに保管されていても不思議はない。そこで溶接を始めたため何かが燃えだし小さい爆発が起こる。この爆発で延焼がさらに広まり、また爆発により溶接のための燃料が漏れ出したか、車のガソリンか、何らかの燃料が硝酸アンモニウムと混ざり合う事で今回の大爆発に繋がったのである。大方の見解としてこんなもんだろう。




硝酸アンモニウムから作られる爆弾は強力だ。また安価に簡単に作られるためテロリスト御用達の爆弾だ。100人以上が犠牲になったホクラホマ連邦政府ビルの爆破テロにもこれが使われた。少量でビル一棟を倒壊させる破壊力を持つのである。2年ほど前に中国・江蘇省で起きた大爆発もこれが噂されている。




今回の爆発で旧宗主国のフランス政府はいち早く災害支援を表明し、救助、救出、遺体捜索、医療支援のために軍用機3機を送るとのころ。また爆発の規模が大きく市街地に近い事からも犠牲者の数は膨れ上がるだろう。我々が食料を必要とする限り、硝酸アンモニウムは無くてはならない物質だ。「パンを食べるな」とは言えないため、今後も世界中で幅広くこの物質は使われるだろう。つまり今後もこういった爆発は無くなることはないのである。





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2 件のコメント:

  1. あきんどさんの科学ネタ、好きです。

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  2. ありがとうございます。直近一番読まれなかった記事なので嬉しいです。

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