2020/09/29

【文明の衝突】2020年アゼルバイジャン・アルメニア戦争










普通の常識的な家庭なら一冊はあるだろう有名な書籍『ショック・ザ・シビリゼーション』、邦題『文明の衝突』サミュエル・P・ハンティントン、1996年の著書だ。え?持ってないの?馬鹿なの?何て非常識な奴だ。一度は読む事をお勧めします。


この本の一説にはこの様なことが書かれている。

文明は包括的な概念であり、広範な文化のまとまりであると考えられる。文明の輪郭は言語、歴史、宗教、生活習慣、社会制度、文化を背景とした価値観、さらに主観的な自己認識から見出される。人間は重複し、また時には矛盾するアイデンティティを持っているために、それぞれの文明圏に明確な境界を定義することはできないが、ある一定のまとまりを持って存在している。人々は血縁、宗教、民族、言語、価値観、社会制度などが極めて重要なものと見なすようになり、文化の共通性によって協調や対立が促される。そして全ての国は文化を共有する文明圏に参加し、協力しようとするが、文化的に異なるものには対抗、排除しようとする。これは安全保障や経済とは明らかに異なる行動原理であり、区別しなければならない。





もちろんアゼルバイジャンとアルメニアの対立関係の根底にあるのは、宗教や民族の相違だ。ホモ・サピエンスとはいかなる集団の規模において差異を見出し区別し、そして排除するようにプログラムされた生物なのだから。東西冷戦から直近のアメリカでの黒人差別、そしてとある学校のクラスの中ですら差異を見出しては攻撃の対象となり得るのだ。因みに『違い』は何でもよく、それを見出すように我々ホモ・サピエンスはプログラムされている。




また今回の衝突に至った背景には歴史的経緯が存在する。トルコがいち早くアゼルバイジャンの支持を表明した事からも分かるだろう。地理的には隣国のアルメニアではなく、更に遠くのアゼルバイジャンを支持したのは、嘗ては同じ国であり、双方ともオスマン帝国の末裔だからだ。そう、ここらへんは文明の要衝だ。アジアとヨーロッパとの境目。オスマンとモンゴル帝国との境目。正教会とイスラム教の境目。ペルシャ系とトルコ系、ロシア系の境目。








トルコの東にアルメニア、そしてアゼルバイジャン、カスピ海、トルクメニスタン、そして東アジアのハーンの国、タジク、ウズベクと続く。ハーンの国とは、世界最大の領地を獲得したチンギスハーンの国だ。つまりハーンの国とはチンギスハーンの末裔の国のことだ。そしてオスマンとハーンの国の境界がその2つの名前を有するトルクメニスタンだ。トルクメンのハーンの国だ。




つまりオスマン・トルコ帝国のかつてのアジアとの境界がトルクメニスタンだ。ではアルメニアは?地理的にはオスマン帝国の支配地域だったが、現在の住民はオスマン帝国の衰退とともに移住してきた正教会系のオーソドックスだ。遠因にあるのはロシアの南下政策だ。アルメニアはトルコの隣に存在するがオスマン帝国との関係は無く、一つ飛んでアゼルバイジャンがオスマン帝国系のイスラム系の住人で、トルコとの共通のアイデンティティーを有する。いち早くトルコが支援を表明した背景がこれだ。



アゼルバイジャンの国旗、イスラム系の半月旗でトルコの国旗と瓜二つだ。






トルコやアゼルバイジャンのオスマン帝国人からすれば、正教会の住人に乗っ取られた失われた失地で、取り戻そうとするのは当然だ。正し何代も世代を重ねたアルメニア人からすれば、先祖の土地を守ろうとするのも当然である。





冷戦期以降に問題が明るみに出た頃には、もう後戻り出来ないところまで来ており遅すぎたのだ。すでに双方の領土でお互いの民族が隣同士で暮らしおり、アゼルバイジャンにアルメニアの飛び地があったり、アルメニアの中にアゼルバイジャンの飛び地があったりするのだ。もちろん双方の住民が双方の土地でまだら模様に暮らしており、今まで民族浄化のジェノサイドが起こらなかったのが不思議なくらいだ。




もちろんジェノサイドが起こらなかったのは不思議でも何でもなく、共通の敵として資本主義の西欧諸国との対立があり、そして元々『スターリンの庭』として同じ一つの国『URSS』だったためだ。しかしソ連崩壊に伴い独立したこれらの国では、歴史的経緯や民族、宗教を無視した国境線により根深い問題として発展する。


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皆さんはヨシフ・スターリンという人物をご存知だろうか?そう我々のヨシフだ。彼の出身はグルジアだ。アルメニアやアゼルバイジャンのお隣の国であり、現在のジョージアに相当する。彼が革命後すぐに死んだレーニンに変わってソ連を統治したからこそ問題にならなかったのだろう。我々のヨシフだったからこそ。え?文句あんの?どうなるか分かるよね?




我々のヨシフは正教会系だが、当時の世界情勢やソ連国内情勢において人種や宗教の違いは大きい問題ではなかった。まだ建国されたばかりであり帝政派も多く、上手く行かない社会主義経済への転換、そこに追い打ちを掛ける飢饉。また国外ではヒットラーの台等などと、スターリン時代のソ連の住民は民族対立などの余裕は無く、今日の飯にすら事欠く日々。



そう生きることで精一杯だったのだ。因みに我々のヨシフが出したこれら全ての問題の回答は『粛清』の恐怖政治だ。宗教も人種も関係無く全て同じ大きさに切り揃えられた人々の間に格差は無く皆平等に貧しく生き、不平を言わせないのが社会主義の恐怖政治の本質だ。







しかしソ連崩壊、スターリンの庭に位置する国々は独立。いろいろな所に取り残された異なるまだら模様の住人たち。独立出来なかったイスラム系が多いチェチェン共和国のチェチェン人が起こした2002年のモスクワ劇場占拠事件、人質犯人170人が死亡。直近のクリミア戦争、そして今回の2020年アゼルバイジャン・アルメニア戦争。イスラム教と正教会の対立、ロシア系とウクライナ系の対立、そしてオスマン系と正教会系の対立が今回の衝突だ。




今までは大国のスーパーパワーに抑圧されていた問題も、一旦解き放てば文明の断層面で衝突が起こるのは当然と言えよう。『文明の衝突』だ。もちろん簡単な解決策など無く、いかなる解決策も遺恨を残し、次の衝突へと繋がるだろう。そう、我々サピエンスが人々の間に『違い』を見出す限り。。






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